序章3節 神学諸科解題 - Theological Encyclopedia -
BibleStyle.com
初版 2008年3月23日
1. 総論
近代以降、他の学問領域の例にもれず、キリスト教神学も専門分化が進み、分野が急増しました。そのため、神学諸科相互の関連性を明らかにし、神学領域の全体像を示す見取図の必要が意識されるようになりました。そこで19世紀に生まれたのが、「神学諸科解題」です(「神学通論」とも呼びます)。
その分類方法には諸説ありますが、どの説を採るにしても、個々の分野をバラバラに捉えるのではなく、有機的関連性をもった体系として把握することが大切になります。
以下、代表的な説を挙げます(なお、このサイトは「四分類説」を修正して採用しています)。
2. 三分類説
1. 哲学神学: 弁証学、護教学
2. 歴史神学: 釈義神学、教会史、教義学、教会論
3. 実践神学: 教会奉仕、教化的活動、指導的活動、教会政治
【参照】 シュライアマハー*1 の『神学通論』*2 (加藤常昭:訳、教文館、2009年〔改訳版〕)
*1) Friedrich Daniel Ernst Schleiermacher, 1768-1834
*2) Kurze Darstellung des theologischen Studiums zum Behuf einleitender Vorlesungen, 2.Aufl., 1830
3. 四分類説
1. 釈義部門: 聖書語学、旧・新約諸論、旧・新約釈義、旧・新約神学
2. 歴史部門: 教会史、教理史
3. 組織部門: 教義学、弁証学、倫理学
4. 実践部門: 説教学、礼拝学、牧会学、教会政治学、信条学、礼典学
【注記】 ドイツの大学神学部で採用され、英米にも紹介され、現在日本でも広く見られます。
【参照】 ハーゲンバハ*3 の『神学諸科解題』*4
*3) Karl Rudolf Hagenbach, 1801-1874
*4) Enzyklopädie und Methodologie der Theologischen Wissenschaften, 1833
4. 五分類説
1. 聖書学群: 正典論、本文論、聖書語学、解釈学、釈義学、翻訳学、考古学など
2. 教会学群: 制度的なものとして、教会法、教会地理、教会運営、教会史、統計学など
有機的なものとして、キリスト者の個人・家庭・市民・学問(文学・科学・芸術)の活動
3. 教義学群: 信条学、教理史、教父学、キリスト教精神史、教義学、倫理学
4. 奉仕学群: 説教学、教理問答学、礼典学、伝道学、牧会学、福祉、献金、信徒組織など
5. 非神学・学際的諸科: 神学諸科、神学序論、神学文献学、偽宗教史、宗教哲学
【注記】 オランダ改革派教会の大学神学部・神学校で、修正されながら現在も採用されています。
【参照】 カイパー*5 の『神学諸科解題』*6
*5) Abraham Kuyper, 1837-1920
*6) Encyclopaedie der Heilige Godgeleerdheid, 1893-1895
5. 六分類説
1. 聖書学: 神学の究極の資料である聖書についての分野
2. 組織神学: 哲学思想を用い、信仰の主要命題を諸信条にならって体系的に整理する分野
3. 哲学神学: キリスト教信仰と他の知的活動領域との共通基盤を発見する分野
4. 歴史神学: 歴史と神学との関連を明らかにし、神学思想の形成・発展の歴史を探究する分野
5. 牧会神学: 神学的十全性と両輪をなす、牧会的適用性を学問的に考察する分野
6. 霊性神学: 啓示された真理の「知的研究」と「瞑想(神との人格的関係)」を結ぶ分野
【参照】 マクグラス*7 の『キリスト教神学入門』*8 (神代真砂実:訳、教文館、2002年)
*7) Alister E. McGrath, 1953-
*8) Christian Theology: An Introduction, 4th ed., 2006
6. ローマ・カトリック(19世紀以降)
1. 基礎神学: 弁証学(諸科の基礎)
2. 歴史神学: 聖書学、教会史、諸宗教比較神学
3. 組織神学: 護教神学、教理神学、道徳神学
4. 実践神学: 教会法、司教神学、公教要理学
【注記】 上智大学神学部(イエズス会)は、「哲学・聖書学・歴史・教理学・実践神学」の五分類に立つようです。また、12世紀、欧州に大学神学部ができた頃は、「教理神学(超自然的)」と「道徳神学(自然的)」の2つに分類したうえで、ともに護教神学として統一的に把握していたそうです。さらに古い文献では「神のことば」「神についての物語」「神に関する証明」「神への祈り」という分類も見られます。*9
*9) G. Wainwright 「神学の方法」『現代キリスト教神学思想事典』 新教出版社 2001年
7. 異なる分類方法
「解放の神学」などの「現代神学」や、「福音主義神学」、「自由主義神学」などは、神学諸科として分類するというより、むしろ神学の姿勢・観点・現象のようなものと言えます(「自由に神学してみよう!」というような。「自由」の意味が問題になりますが・・・)。なお、それぞれの詳細は、各種キリスト教辞典等をご覧ください。
目次に戻る ← → 次節に進む
|