外部の敵に対する戦いにおいては一致した姿勢を見せた民でしたが、内部には様々な問題があり、不一致の危機を抱えていました。城壁再建のための民族総動員の動きが、民のなかの貧しい人たちに経済的な困難をもたらしていたのです。城壁の再建に参加しながら、自分たちが食べていくための生活費をどう稼ぐか、どう税金や利息を払い、家族を養うかなど、深刻な問題でした。ある人は累積する借金のために子どもを奴隷として売らなければならない窮状を訴え、またある人は自分たちの畑やぶどう畑も他人のものになってしまったと抗議の声をあげました。
ネヘミヤは事柄の重大性を重く受けとめ、熟慮したうえで大会を開きました。そしておもだった者たちや代表者たちに対し、彼らが自己の利益を優先し共同体の重要性に目を向けていないことを非難しました。正義とあわれみ、神への恐れを訴えるネヘミヤは、貧しい人々の負債を帳消しにすることを宣言します。そして民もそれを約束し、そのとおりに実行したのです。それだけでなくネヘミヤは、12年間、総督としての手当ても受けませんでした。彼のこの建設的な批判精神と献身的な態度には、指導者のあり方として大いに学ぶべきものがあります。
城壁も完成間近になり、敵たちは謀略をもってネヘミヤを亡き者にしようとします。彼らはある村にネヘミヤをおびき出し、そこで彼の命を奪おうと、再三にわたって試みました。しかしネヘミヤは、神様に祈りつつ、それらを退けます。すると敵たちは、次に預言者シェマヤを使ってネヘミヤを神殿の中に誘い込もうとします。祭司ではないネヘミヤにとっては(もし彼が宦官だったとすればなおさら)、神殿に入ること自体が罪を犯すことになるからです。ネヘミヤはこの巧妙なわなをも見破り、その誘いに乗らず危機を切り抜けます。信仰によるネヘミヤの勇気と賢明さをここにも見ることができます。
こうして幾多の障害を乗り越えて、城壁と門はたったの52日間で再建されました。城壁の完成は、神様により頼むネヘミヤの信仰と卓越した指導力、また民への誠実さによって勝ち得た勝利でした。そしてその背後に神様の御手が確かにあったことが分かります。しかし、ユダヤの民の上層部はサマリヤ人と固く結び付いており、ネヘミヤは民の宗教改革という、より困難な事業へと踏み出さねばなりませんでした。