この章で注目されている2人の人物、アブネルとヨアブ。いずれもすでにサムエル記第一に登場していました。2章の後半では、両者が互いに戦いをかわしている様子が記されていました。3章6節はじめに「サウルの家とダビデの家とが戦っている間」とありますが、それはアブネル一行とヨアブ一行の間に行われていた争いでした。
アブネルは、イシュ・ボシェテをイスラエルの王として立てた人物です。しかし自らが立てた王に将来性のないことを見た彼は、王を捨て、鞍替えしようとダビデに接近していきます。ところが兄弟をアブネルに殺されたダビデの部下ヨアブは、この状況を危惧し、アブネルを殺害します。サウルの側近であったアブネルではありましたが、ダビデはヨアブの行動を呪い、アブネルの死を悼み悲しむのでした。権力を求める姿、復讐に燃える姿。嘆かわしい人間の愚かさを記す3章でした。
アブネルが殺されたことを知り、イスラエルの王イシュ・ボシェテはさらに力を失い、イスラエルの民も動揺します。この混乱のどさくさに紛れ、この時ぞとばかりに行動を起こしたのが、バアナとレカブという2人の兄弟です。彼らはイシュ・ボシェテの首を、ダビデのもとに持って来ます。しかしダビデは、正しい人の血の責任を問い、2人を処罰します。
ダビデが断固、2人に同意できなかったのには理由がありました。それは彼がサウルとかわした約束です。洞穴の中で、サウルを打とうとする部下たちを制したダビデの姿が、サムエル記第一24章の場面でした。その最後に、命拾いをしたことを知ったサウルは、ダビデにこう告げます。「あなたが必ず王になり、あなたの手によってイスラエル王国が確立することを、私は今、確かに知った」「さあ、主にかけて私に誓ってくれ。私のあとの私の子孫を断たず、私の名を私の父の家から根絶やしにしないことを」(24章20〜21節)。そして「ダビデはこれをサウルに誓った」(22節)とあります。誓いを尊ぶダビデの姿に、約束を違わず実現される私たちの主の誠実を思い起こす4章です。
ダビデはいよいよ全イスラエルの王とされました。困難のあるなかでもエルサレムを攻めとり、全イスラエルを治める拠点として、王宮を建てます。ツロの王ヒラムの贈り物が届き、ダビデが王となることが、まさに主の御心であることを裏付けるように、道は開かれ、状況が整って進んでいきます。しかし、これら喜ばしきことのなかで、ダビデが見つめていたのは主ご自身でした(12節)。「主がこれらのことをしてくださったのだ」と、ダビデは栄光を主に帰しています。
17節以下の戦いにおいても、ダビデは主に伺いながら行動します。そんなダビデに主は言われました。「あなたより先に出ているから」(24節)と。この確かな主のご臨在の約束を確認し、ダビデは、主の命じられるとおりに行動するのでした。
進むべき道がゴールまですべて見えるようにする。主はそのようなことをなさいません。ダビデはことあるごとに主に伺います。そしてそのつど、主は進むべき扉をダビデに示し、前に進んでいくようにされました。主は私たちの歩みに先立ってくださるお方です。だから信頼して一歩前に進めるのです。