ついに長年住み慣れたラバンの家から旅立つ決心をしたヤコブは、その決心を裏付けるような神の語りかけを聞きます。「主はヤコブに仰せられた。『あなたが生まれた、あなたの先祖の国に帰りなさい。わたしはあなたとともにいる』」(31章3節)。これは、若き日の荒野で過ごした夜に、主なる神のお与えくださった約束の時が、今まさに到来したことを示す語りかけでありました。こうしていよいよヤコブは、一族を率いて長年住み慣れたラバンの家を後にします。
神の時と人の時が一つに結び合った時、それが新しい旅立ちの時です。その時を見極めるためには、どっしりと落ち着いて状況を見渡し、忍耐強く主の語りかけを待ち望み、それを悟ったときには速やかに立ち上がり、主の御前に決断して歩み出す。人の時を通して神の時を知り、人の時を越えて成し遂げられる神の時に従って歩みたいものです。
ラバンに別れを告げて本格的に荒野の旅を始めたヤコブは、その旅の途上で神の使いとの出会いを経験します。この神の臨在に励まされて、ヤコブは一つの重大な決断を下すことになるのでした。それは故郷への道の最大の難関である兄エサウとの和解です。
このときヤコブは神に祈ります。契約の主なる神への信仰を告白し、神がこれまでになしてくださった恵みを覚えつつ、それに相応しくない自分自身の小ささを自覚し、恐れがあることを正直に告白しています。そして最後にはもう一度主なる神の契約に立ち返り、その変わることのない祝福の約束に訴えかけます。さらにこの祈りの後、ヤコブは神の使いとの格闘を経験します。この経験を通して、ヤコブはさらに深く神に取り扱われ、祈りの確信を深めていくのです。
ついに兄エサウとの邂逅のときが訪れます。ヤコブの心づくしの贈り物の行進を目の当たりにし、ヤコブとの直接の対面を通して、兄エサウの心は解かされていきます。この邂逅を経て、ヤコブは真の意味で新しい人生を歩み出していくことになります。
兄とは違う道を行くヤコブですが、しかしこの別離は決して以前のような敵対関係のなかでの出来事ではありません。むしろ真の和解の経験を経た2人だからこそ、もはや憎しみや妬み、恐れや疑いの心に縛られることなく、主にある真の自由を得た者として旅立つことができたのです。
私たちもキリストによって罪赦され、新しい自由の歩みを始めていきましょう。