旧約 第26週 歴代誌第二16章~32章
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学校法人桜美林学園 宗務部チャプレン室スタッフ
青木 俊介
2009年10月31日 初版
はじめに
歴代誌は、バビロン(バビロニア)捕囚の憂き目にあった南ユダ王国の民たちが、その帰還にあたって、「主なる神様は、悪を決して許さず、裁かれるお方だ」ということと、「主なる神様は、何ごとがあったとしても、ダビデの王家を守り続けてくださるのだ」ということを確認し、証しするために執筆した歴史書です。ダビデの王家と袂を分かち、主なる神様を「金の子牛」のイメージにすり替えてしまった北イスラエル王朝との、「対比」において歴代誌第二(下)のストーリーは展開されて行きます。そのようななかにあって、「主なる神様の正義」と、「連綿と続いていく主なる神様の御守りの約束」を読み解いていきたいと思います。
【日曜】 歴代誌第二16章~18章
引き続いて、ダビデ王朝第5代国王(南北分断後から数えると、第3代ユダ国国王)の、アサの生涯です。主に従い続けてきたアサの生涯ではありましたが、その晩年にあっては、気がゆるんでしまったのでしょうか、対北イスラエル王国政策にあたって、主なる神様ではなく、近隣のアラムに助けを求めてしまいます。その「罪」のために、最晩年は病のうちに生涯を終えることになってしまいましたが、それにもかかわらず、「ダビデの王家は途絶えることはない」という主なる神さまの約束は続いていきます。クーデターもなく、アサの息子、ヨシャパテ(ヨシャファト)が、ダビデ王朝第6代国王(南北分断後から数えると、第4代ユダ国国王)に即位いたします。ヨシャパテの治世のもと、南ユダ国は大いに栄えていきます。
ヨシャパテは、その息子ヨラムと、かつて敵対関係にあった北イスラエル国のアハブ王の娘、アタルヤとを政略結婚させます(18章1節、21章6節、22章2節)。こうして、南ユダ国と北イスラエル国とは姻戚関係を結んだため、ヨシャパテ率いる南ユダ国は、北イスラエルの対アラム政策に巻き込まれて行きます。「主に従う」ということを旗印として掲げる南ユダ国と、その「主」を、金の子牛のイメージにすり替えてしまった北イスラエル国。しかもイスラエルのアハブ王は、バアル崇拝者です。健全な同盟関係を結ぶためには、何とかして「主なる神様のもとにある一致」を確立させる必要があります。ヨシャパテはこの同盟関係を、「主の言葉を求める」という行為でもって始めることを提案いたします(18章4節)。しかしながら、お安いご用とアハブが連れてきたのは、預言者ならぬ400人の太鼓持ち。皆一斉に戦いのアジテーションを繰り返すばかりです(18章5節)。げんなりするヨシャパテです。本物の預言者をアハブに要求するも、あまり乗り気ではない様子のアハブ(18章6~7節)。2人の王の信仰面における温度差は明らかです。
そして登用されてくる「本物の預言者」ミカヤです。「君もちゃんと太鼓持ちの役割を果たすんよ」と、しっかり釘を刺されています(18章12節)。北イスラエル国において、国王御用達の預言者が、もはや預言者としての機能を果たしてはいないことを如実に物語るエピソードです。それならばと、主の御名によって語ることはせず、(おそらく)ふざけた、やる気のない態度で「がんばってー、くーださーいよー」と述べるミカヤ(18章14節)。ぶち切れるアハブ。「本当の預言を気合い入れてせんかい!」と(18章15節)。そのとき、急に態度を変えるミカヤ。「言いましたね。それならば・・・」と惨敗を預言し出します(18章16~24節)。ミカヤ、悪い男です。
その後、アハブは卑怯極まりないカモフラージュ戦略を立て、ヨシャパテを身代わりにしようとしますが(18章29節)、主はヨシャパテを守られ(18章31~32節)、アハブは戦死してしまいます(18章33~34節)。
【月曜】 歴代誌第二19章~20章
命からがら、ユダ国の首都エルサレムへと帰還するヨシャパテでした。「主に従わない国」と同盟関係を結んでしまっていたことを深く恥じ、ヨシャパテは、国を挙げての一大宗教改革に乗り出します。「主に従う」ことをアイデンティティーとするユダ国の、そのアイデンティティーの再確認をなすのでした。今回は特に、司法の分野において改革がなされます。前の対アラム戦において、「悪を見過ごされることは決してない主なる神様」の、その正義の御業を目の当たりにしたヨシャパテは、ユダ国内においても、正義の裁きが行われ、不正やえこひいきやわいろが一掃される、司法行政の改革を断行いたします。よほど、戦での教訓が身に沁みたのでしょう。主にある清廉潔白さをめざす、断固たる改革です。
しかしながら、対外的にはやはり、対アラム戦を経て、「ユダ国内の一致は盤石のものではない」との風説が広まってしまったのでしょう。かつては、その信仰における一致ゆえ、近隣諸国は恐れをなして近づきもしなかったものでしたが(17章10節)、改革途上の隙を突き、次々と攻撃を受けるはめになってしまうのでした(20章1節)。
今回ヨシャパテは、何よりもさきに、主なる神様からの助けを祈り求めます(20章3~13節)。対北イスラエルにおいて、安易にアラムと同盟を結んでしまった、父アサとはえらい違いです(16章1~4節)。国家の一大事であるところの危機的状況を打開するために、国民が、一堂に会して、主の御名を呼び求めたわけです。政府の高官や、宗教的指導者のお歴々が列席するそんななか、主なる神様からの預言の言葉は、ヤハジエルという一介の聖歌隊員に臨みます(20章14節。アサフの子孫が代々聖歌隊職に就いていたことについては、第一歴代25章1節を参照)。「この戦いではあなたがたが戦うのではない」(20章17節)という、聖歌隊員に与えられた主からの言葉を文字どおり信じ、ユダ国軍は聖歌隊を先頭に立てて進軍いたします(20章21節)。賛美の歌声のなか、人の手によらずして、ユダ国軍は勝利を収めるのでした(20章20~26節)。再び賛美のなか、凱旋帰国するユダ国軍です(20章27~28節)。
その後、再び北イスラエル国と同盟を結ぶという過ちを犯すものの(20章35~37節)、基本的には主に従い通したユダ国の王、ヨシャパテでありました(20章30~32節)。
ちなみに、20章33節等にある「高き所」というのは、公認の礼拝所であるエルサレム神殿以外の、数多くあった「インディーズ礼拝所」のことです。ここでは、主なる神様以外の異教の神々へもいけにえが捧げられ、偶像崇拝の温床となっていたようです。
【火曜】 歴代誌第二21章~23章
ヨシャパテの死後、クーデターも起こらず、その子ヨラムが、ダビデ王朝第7代国王(南北分断後から数えると、第5代ユダ国国王)に就任いたします。彼の妻は、北イスラエル国の王家から嫁いできた、バアル崇拝者アハブ王の娘、アタルヤです(21章6節、22章2節)。彼女からの悪しき影響に感化されて、ヨラムは主に従わない転落への道を辿ります。最終的に彼は主からの裁きをその身に受けて、壮絶な最期を遂げるに至ります(21章18~20節)。しかしながら、主なる神様の約束は変わることなく、ダビデ王朝は存続していきました(21章7節)。ヨラムの子、アハズヤが、ダビデ王朝第8代国王(南北分断後から数えると、第6代ユダ国国王)に就任いたします。彼もまた、アタルヤの影響のもと、父ヨラム同様に、主に従わない転落の人生を辿ります。
ヨラム、アハズヤ、と2代にわたって、南ユダ国は、アタルヤの影響のもと、「主に従わない道」、すなわち、親・北イスラエル国政策を採るようになりました。
南ユダ国王アハズヤは、母アタルヤの兄弟、すなわち自らのおじヨラムとタッグを組んで、再び、対アラム戦に乗り出します(22章5節)。このとき負傷したおじヨラムを見舞うため、アハズヤは北イスラエル国領土内に入ります。このとき北イスラエル国内で発生したクーデターに巻き込まれ、アハズヤは命を落とします(22章7~9節。ちなみに、このとき発生したクーデターの詳細については、第二列王8章25節~9章37節を参照)。
親・北イスラエル国政策を逆行させる、「主にある一致」という志を持つ者がユダ国国王に即位することを阻止するため、わが子アハズヤを失ったアタルヤは、ユダの王家の者を皆殺しにせんと、大虐殺を実行します(22章10節)。その後、アタルヤは、自らが南ユダ国の女王に即位します。かくして、途絶えてしまったかに思えたダビデの血筋でありましたが、唯一の生き残り、ヨアシュが神殿に保護されます(22章11~12節)。主なる神様の約束は、ここでも変わることなく続いていくのでした。この後、ダビデ王朝はしばしアンダーグランドに潜ります。
6年後、7歳になったヨアシュを即位させんと、ヨアシュの保護者、祭司エホヤダ(ヨヤダ)は立ち上がり、クーデターを勃発させます。
女王アタルヤは処刑され、ヨアシュは、ダビデ王朝第9代国王(南北分断後から数えると、第7代ユダ国国王)に即位いたします。ダビデ王朝の復活です。
【水曜】 歴代誌第二24章~25章
保護者=お目付役のエホヤダ(ヨヤダ)の存命中は、主に従う道を歩んでいたヨアシュでありました。エホヤダの指導の下、ヨアシュは神殿の補修と、その資金調達に奔走します(24章4~14節)。しかしながら、エホヤダの死後、ヨアシュは偶像崇拝に走ります(24章17~18節)。彼を戒めるために、主から遣わされた預言者ゼカリヤを、ヨアシュは殺害してしまいます(24章19~21節)。このゼカリヤは、ヨアシュを育ててくれたエホヤダの実子です(24章22節)。おそらく、小さい頃から兄弟のように育った2人ではなかったのでしょうか。
ちなみに、マタイ23章35節、およびルカ11章51節に記されている、「アベルの血からザカリヤ(ゼカリヤ)の血まで」というザカリヤは、このエホヤダの子ゼカリヤのことです。カインとアベルの物語は、創世記の記述。エホヤダの子ゼカリヤの物語は、歴代誌の記述。そして、ヘブライ語聖書の並びでは本来歴代誌が最後の書物になっておりますので、ここで言われているのは「旧約聖書の最初の殺人と最後の殺人」という意味です。
その後、ヨアシュは殺害され、その子アマツヤがダビデ王朝第10代国王(南北分断後から数えると、第8代ユダ国国王)に即位いたします。25章は、アマツヤの治世におけるユダ国の歴史です。主に、北イスラエル国との間の軋轢が記述されています。
【木曜】 歴代誌第二26章~28章
アマツヤの死後、その子ウジヤが、ダビデ王朝第11代国王(南北分断後から数えると、第9代ユダ国国王)に即位いたします。彼は、お目付役のゼカリヤ(先ほどのゼカリヤとは別人)の存命中は、主に従う道を歩んでいたようです(26章5節)。そのため、ユダ国は大いに栄えます。しかしながらその後、彼は祭司にしか許されていない職務である「神殿における香たき」を行い、主なる神様からの裁きを受け、死ぬ日までツァラアト(重い皮膚病)に冒されます。
ウジヤの死後、その子ヨタムが、ダビデ王朝第12代国王(南北分断後から数えると、第10代ユダ国国王)に即位します。彼は、主に従い通した、正しい人物であったようです。
ヨタムの死後、その子アハズが、ダビデ王朝第13代国王(南北分断後から数えると、第11代ユダ国国王)に即位いたします。彼は、異教崇拝に走り、そのため、南ユダ国は主なる神様からの裁きを受け、アラム、北イスラエル国、また救援を求めたアッシリアからも総攻撃を受けます。アハズ王は主なる神様に背き続け、その生涯を閉じます。アハズ王の死後、その子、ヒゼキヤが、ダビデ王朝第14代国王(南北分断後から数えると、第12代ユダ国国王)に即位いたします。
悪を行った王個人には裁きが下されるものの、歴史を通して見ていくと、ダビデ王朝は途絶えることなく連綿と続いていき、主なる神様の約束は継続中であることがわかります。
【金曜】 歴代誌第二29章~30章
歴代誌第二(下)のハイライト、ヒゼキヤの生涯が始まります。歴代誌のなかでも、最長の4章がその生涯に充てられています。
南ユダ国には、先代の王、アハズの時代に、アッシリアに救援を求めたものの、逆に攻撃を受けてしまった、という負の歴史がありました。目下、南ユダ国はアッシリア帝国の攻撃下にあります。また、かつての同胞である北イスラエル国が、アッシリア捕囚によって滅亡し、10部族が離散してしまったのも、このヒゼキヤ王の治世での出来事でした(参照:第二列王17章1~6節)。このように、29章から始まる記述の背後には、常にアッシリアの脅威があったのだ、ということを覚えておいていただきたいと思います。
アッシリアの脅威下にあるユダ国。このユダ国を統治するにあたってヒゼキヤは、近隣の列強帝国にすがるのでもなく、力を求めて異教の神々にすがるでもなく、まず主なる神様を礼拝する神殿を修復し(29章1~3節)、しかる後にこれを清め(29章4~19節)、新たなる思いでもって、いけにえと賛美とをささげるのでした(29章20~36節)。
またヒゼキヤは、ユダ国ばかりではなく、アッシリア捕囚によって荒廃してしまっていた、北のイスラエル国にも使者を遣わし、残留民たちにも、ともにエルサレムでの神殿礼拝に参加するように呼びかけます(30章1節)。ダビデ・ソロモン時代のような、かつての統一王朝黄金時代を彷彿とさせる呼びかけです。「ベエル・シェバからダンに至るまで」(30章5節)ということばに、このことが如実に表されています(ベエル・シェバは、南ユダ国の南限の街。ダンは、北イスラエルの北限の街。日本地図で言うところの「南は九州沖縄から、北は北海道まで」とよく似た言い回しです。すなわち、北イスラエルと南ユダ国とを「統一国家」と目している言い回しなわけです)。
ともに主なる神様を礼拝し、喜び祝う、イスラエルとユダの民たちの姿です。
「エルサレムには大きな喜びがあった。イスラエルの王、ダビデの子ソロモンの時代からこのかた、こうしたことはエルサレムになかった」(30章26節)。
【土曜】 歴代誌第二31章~32章
そしてついに、かつてのどんな王もなし得なかった、完全なる「国家の清め」がなされます。ユダ国から、異教崇拝の温床であった悪しき遺産、「高き所」(インディーズの礼拝所)が一掃されるに至ったのでした(31章1節)。ヒゼキヤが、主なる神様に従い通した、正しいよき王であると言われる所以でしょう。
「ヒゼキヤはユダ全国にこのように行い、その神、主の目の前に、良いこと、正しいこと、誠実なことを行った。彼は、彼が始めたすべてのわざにおいて、すなわち、神の宮の奉仕、律法、命令において神に求め、心を尽くして行い、その目的を果たした」(31章20~21節)。
そしてついに、あのアッシリア大帝国がユダに魔の手を伸ばします。北イスラエル国を滅ぼし、近隣諸国を次々に植民地にしてきた大帝国の、ユダに対する姿勢はあまりに傲岸不遜です。国家を挙げて、「国を清めて主に従い通す」という姿勢を貫いてきたヒゼキヤと、傲慢極まりないアッシリアの王セナケリブ。2つの国家が遂に接触するのでした(32章1~19節)。
その結末は、あまりにも劇的です(32章20~23節)。
栄光のうちにヒゼキヤはその生涯を閉じ、その子マナセが王となります(32章24~33節)。ダビデ王朝第15代国王(南北分断後から数えると、第13代ユダ国国王)の誕生です。
主なる神様の約束は途切れることなく、ダビデの系図は続いていきます。そう、我らの主、イエス・キリストの誕生へと・・・。
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